自閉症と診断された子供の成長記録で垣間見る「脳の育ち方」
3~4歳時『中機能自閉症 IQ70』の診断、判定。
小学校入学時おうむ返しのみの息子が普通に高校受験し、普通に通学するまでの成長記録
3~4歳頃「中機能自閉症」「IQ70 知的障がい有無の境界上」と判定され、小学校入学時にはまだおうむ返し以上の言葉がなかった息子ですが、2012年春普通に高校受験して無事合格、入学して現在に至っています。受験した高校の偏差値は65前後だそうですので、まあまあの学力レベルと認められたと考えて良いでしょう。
しかし、親として嬉しかったのは、学力の問題以上に、一般の高校に一般の生徒として入学し、特別なサポートなしにそのまま何とかやっていってくれていることの方です。
だからといって、息子が他の生徒と普通に溶け込んでやっていける一般的な人間になったのか、というと、決してそうではありません。高校生と言っても、精神年齢的にはまだせいぜい小学校低学年程度ですし、身の回りのことに対する注意力がほとんどはたらかないため、例えば学校からの指示をほとんどまともには聞いてきません。また、自分で段取りを考えることもほぼできません。
さらに、一般の人が普通に持っている当たり前の能力が、虫食いの様にあちこち致命的に欠落しているため、学習の面でもひどく苦戦しているところが多々あります。
しかし、これらのこと全てにおいても、3~4歳時から考えるとはっきり改善しており、ベクトル上で考えれば遅まきながらもこれらの欠陥も消していくことができるのではないかという期待を持っています。
息子がここまで漕ぎ着けられた要因は数多く考えられますが、まず最初に重要なことは、「自閉症」「知的障がいがある」と判定されても、育て方次第で社会的にも知的にもある程度までに持っていける可能性が少なからずある、ということの認識だと思います。
まがりなりにも高校受験して合格する程度の知的レベルにあるにもかかわらず、5歳児でも簡単に理解しそうなことを全く理解できない息子の持つ「障がい」(「自閉症」を含む、広汎性発達障がい」ということになると思います。どうも親としてこの言葉を使うのには抵抗があるのですが)を、私は「不思議症」と名づけました。同じタイプの子供をお持ちの親御さんなら共感していただけるのではないでしょうか。
「こんなことが分かってこんなことが分からないなんて」「こんなことができてこんなことができないなんて」…彼らと付き合っていると「不思議」の連続ですから。
3~4歳頃というのは「不思議症」の判別がつくぎりぎりのタイミングだと思いますが、判別されたからと言って、「知的障がいがある」「普通の社会生活をおくれるようにはならない」と決めつけて育てたのでは、その子が発揮しうるパフォーマンスを発揮させないまま一生を送らせる結果になってしまいかねません。あきらめないで、というのではなくあきらめる必要などみじんもないと考えます。ただ、当然ですが普通の子育てでは普通にいかないのが不思議症の子育てです。
私はたまたま学生時代の専攻が心理学だったこともあり、自分の子供に対する切ない気持と、研究対象を見る好奇の気持ちを混ぜ合わせながら彼と16年以上付き合ってきました。母親というのは父親よりはるかに切実に子供を守り育てることに必死で、とにかく彼を育てる上で中心になってきましたが、それに加えて、息子の場合は最初に診ていただいた心理士の先生から幼稚園・学校・療育機関の先生方などの彼を応援してくださった方々がすばらしく、そういう環境で彼も上記のような状態まで成長したものと思います。
そんな息子の成長をつぶさに観察していると、当然息子の特殊性はあるものの「人間の『脳力』とはこのようなつくりになっていて、誕生時からこのように成長していくんだ…」という発見や推論が無数に生まれてきました。また、幼稚園・小学校・中学校などを通じて、大人の子供たちを育む姿勢に関することやいじめの問題など、障がいの有無に拘わらず、子育てをする上で貴重な経験を多数することになりました。
この本ではそれらの発見や推論、経験をある程度詳細にご紹介させていただきます。